Stage 戻る bar2.gif HARAHORO SHANGRILA
想像絶する300円の謎
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001_leaflet_thumb.jpg 『想像絶する300円の謎』 映画「BU・SU」のなかの一場面である。
電車に乗った主人公が、1人の見知らぬ女性に目を奪われる。彼女の顔に出来た「アザ」が、主人公の目を引きつけたのだ。悲しそうに沈みこむ女性。主人公はやがて、その「アザ」から何か物語を読みとり、自らの感慨に耽っていく。果して、その「アザ」は主人公にどんな物語を与えたのだろうか。安易に推測しても、「付き合っている男性が酒乱気味で、訳もなく彼女に乱暴を働いた」「無断外泊が続いた彼女を、父親が思わず殴ってしまった」などといったことが思い浮かぶ。誰も、「突然、真夜中にカンガルーが走り込んできて、顔面を踏みつけられてしまった」とは、推測しないだろう。つまり、その女性の「アザ」は、ボク達の推測可能な範疇にある。
 しかし、世の中には、ボク達の想像力では、到底、推しはかることが出来ないことも、数多く存在する。そんなことに遭遇してしまった時には、もはや、ボク達は笑うしかないのである。

 そば屋でアルバイトをしていた頃の話だ。その日も、ボクは出前を届けるべく、注文のあった部屋に行き、そのインターホンを押した。しかし、何度押してみても応答がないのだ。故障しているのかと思い、試しにドアをノックしてみたが、やはり応答がない。やむを得ず、ボクは施錠されていないそのドアを開け、玄関に入り込んだ。奥には、1人のお婆ちゃんがテレビの前にきちんと正座し、それを見入っていた。
 なんだ、いるんじゃないか、と多少ムッとしながらも、ボクはそのお婆ちゃんに向かって言った。「毎度、出前をお持ちしました。」
 ところが、何故か、その声にも反応はなかった。ボクは「耳が遠い」のだと思い、今度は大声で、2、3度続けて叫んでみた。「毎度、お持ちしましたぁっ!」「毎度っ!、そば屋ですぅっ!」
すると、ようやくそのお婆ちゃんは、ボクの存在に気づき、腰を上げた。
「やっぱり、耳が遠かったのか」
そうボクが思っていると、そのお婆ちゃんは、ゆっくりと歩いてきてこう言ったのだ。
「ごめんなさいね、郵便屋さんだと思ったから。」
「郵便屋さん」だと思っていた。「郵便屋さん」だと思っていたから、応答がなかったのだ。ボクの推測は見事にハズれてしまった。
「おいくらですか?」
お婆ちゃんは、何事もなかったようにボクに尋ねた。何故、「郵便屋さん」だと無視してしまうのだろう、と考えていたボクは一瞬、戸惑いながらも、その金額を告げた。
「1600円です。」
それを聞いたお婆ちゃんは、持っていた財布の中から大事そうに、お金を取り出した。
「1600円ですね。じゃあ、これでお願いします。」
そう言って、お婆ちゃんは、微笑みながらボクに、300円を手渡したのである。
 これでは、いくら「お願いします」と頼まれても、あまりに金額が不足している。なにしろ、300円だったのだ。
「お婆ちゃん、これじゃあ足りませんよ。」ボクは丁重に、一旦、その300円をお婆ちゃんに返した。すると、お婆ちゃんは、それを受け取りながら言った。
「ごめんなさい。私、一人暮しだから。」
「一人暮し」のせいだった。「一人暮し」だったから、金額が不足してしまったのだ。
しかし、その両者に、一体、どんな因果関係が存在するのだろう。ボクには判らない。
「ちょっと、大きくなっちゃうけど、いいかしら。」
お婆ちゃんは、財布を覗きながら言った。
「大丈夫ですよ。おつりありますから。」
その言葉に安心してか、お婆ちゃんは再度、微笑みながらお金を差し出した。
「じゃあ、これでお願いします。」
そして、ボクの手に渡った金額は、10300円だったのである。
確かに、1600円を支払うに十分な大きい金額だった。しかし、その端数の300円は一体、何を意味しているのだろうか。
 やはり、「一人暮し」にその秘密が隠されているのか。もしかしたら、「郵便屋さん」と関係があるのかもしれない。いや、もしかしたら・・・。
 あれこれ推測しているうちに、とうとう、その300円は、想像力の及ぶ範疇を越えて、はるか彼方へ消えていってしまった。残されたボクといえば、ただ、笑うばかりである。

 意味を探ろうとする無意味さに、ふと気付いた時に生じる笑い。そんな笑いの存在に、今回のハラホロシャングリラは、スポットをあててみました。森羅万象、すべては無意味が基本なのですよ、実は。という訳で、乞う爆笑。




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